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「むなしさ」の心理学―なぜ満たされないのか
諸富 祥彦




“むなしさとは何か”、そしてその“むなしさを克服する心理学とは”についての本と断定しても良かろうと思います。


いろいろと思うところはありましたが……とりあえず、興味深かった部分を二つほど。


この本に拠ると、あくまで社会的な要因の面でですが、日本に空しさが蔓延したのは高度成長期を終え、物が満足に入る時代になってからだと言います。
所謂、バブルが崩壊し父親がリストラに怯える姿を見る子どもが育っていった時代ですね。
全家庭に三種の神器は存在し、もはや全国民が中流階級層意識を持つようになりました。
一方で、頑張らなくとも欲しいものは手にはいる時代になりました。
だから、日本のそれまでの物質的に豊かになるという目標は達成され、以降の目標が無くなった――燃え尽き症候群という表現あたりが適当かと思われます。
そういう頑張らなくてもよい時代だからこそ、自分のことについて考える時間が増えた、というのはなかなか面白いと思いましたが……



うーん……果たして如何なものでしょうね?
自分の管見によれば、確かに、国家全体の目標というものは大きいのでないかと捉えております。
例えば、歴史を鑑みても、国家の士気高揚のために海外に開戦をしかけるといったようなことはあったように思われますので。
成程、今の日本に目標はあるのかと問われますれば、自分も思いつかない気がします。
寧ろ、目標というより解決すべき問題の方でしょうか……対外関係や少子化問題など。

余談ですが、少子化問題、即ち日本の出産率の減少は「女性の既成社会に対する反抗」とも称されてますが……
つい先日、「出産率の減少は日本での避妊・中絶の技術の確立に伴ったものである」という説を耳に驚かされてしまいました。
その説からすると、極論として、避妊や中絶の技術を現社会から取り除けば、少子化の問題は解決される訳ですか……(´・ω・)

という訳で、話は外れましたが、国家に確たる目標がないというのがむなしさの一つの要因というのは自分も賛同するところであります。
とはいうものの、極端な思想に傾斜するつもりはございませんが……。




「自分の生きている意味は何か?」
これが分からないのがむなしさの原因だそうです。
そのむなしさの解決策として、フランクル心理学やトランスパーソナル心理学を用いておられます。
トランスパーソナル心理学がどんなものか初めて知ったのですが、凄く如何わしいですね……(´Д`;)
最終的に人間は宇宙と一体であることにまで心理状態が及んでいない、禅と通じるものがある心理学だそうです。
とまれ、そのフランクル心理学とトランスパーソナル心理学で共通しているのは――「生きている意味は既にそこにある」ということです。
生きている意味を既に与えられているのにそれに気づいてないだけ、とのことです。
今すぐ傍に自分を必要としていてくれる人やモノがある――家族が自分を必要としてくれている、書きかけの本は自分によって書かれることを待っている、等。



納得できるような納得できないような答えです、個人的に(´・ω・)
自分にとっては、鑑三先生の『後世への最大の遺物』の方がまだ真理に近いように思えます。
つまり、たとえお金や事業を残せなくとも、後世達を奮起できるような「高尚な生き方」を残す、ということですね。
いずれにせよ、自分がまだ問題意識として確立できてないが故に知りえない部分も多いのでしょうけれども……。

話は逸れますが、哲学も心理学も一歩違うと宗教になってしまうのだと感じました。
特にトランスパーソナル心理学はもはや宗教の次元としか思えません。
別に否定する意図はないのですが……それに有用性があれば良いと思ってますから。
とはいえ、いずれ宗教的実存に至ると仰ってる方もおられる訳ですしね……。


そこそこに面白い本でした(´∀`)