ステロイドの副作用の有名な「水分貯留」「高脂血症」「不眠」「精神症状」「眼圧上昇」の5症例:日病薬誌 第40巻1号 2004年より


<水分貯留>
臨床経過:
10/15 喘息症状悪化にてヒドロコルチゾン開始。その後徐々に減量。
10/26 下肢浮腫出現。次第に著明となり,全身浮腫出現。
10/30 フロセミド10mg処方されるが症状に改善なし。

【病棟薬剤師】 患者に浮腫が生じていることを薬学的に考察。医師へヒドロコルチゾンによる水分貯留の可能性が考えられることを指摘し,メチルプレドニゾロンへの変更を提案。11/2 ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ)200mg→メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール、ソル・メルコート)40mgへ変更となり,2〜3日で浮腫消失。

《薬剤師のケア》
ステロイド剤の中でもヒドロコルチゾンにはミネラルコルチコイド作用があります。薬剤師がこれに気付き,ミネラルコルチコイド作用のほとんどないメチルプレドニゾロンへの変更を提案し浮腫が改善しました。同効薬の相違点を薬剤師が把握し,適切な薬物選択に貢献できた1例です。

《自分の意見》
病棟薬剤師ではないと気づくのは難しいか。とはいえ、鑑査時でもソル・コーテフとラシックスが同時に処方出ていたら、病棟に浮腫が出てないか、確認するのは十分有りか、と。



高脂血症
臨床経過:
8/7 総コレステロール 232mg/dL
【病棟薬剤師】 経過観察(ステロイド処方前値は215mg/mL)
8/17 総コレステロール 290mg/dL
【病棟薬剤師】 経過観察
8/22 総コレステロール 310mg/dL
【病棟薬剤師】 医師へステロイド剤によるコレステロール上昇の可能性が考えられることを指摘。
同日セリバスタチン(セルタ・バイコール。現在販売中止)錠0.1mg処方開始。

《薬剤師のケア》
ステロイド剤による高脂血症はしばしば経験します。
本症例では担当薬剤師がコレステロール値をモニターし,適切なタイミングで医師へ情報提供を行ったことにより,高コレステロール血症の遷延化を回避することができました。

《自分の意見》
長期ステロイド服用患者のコレステロール値をチェックすることで気づくことは可能であり、上昇が認められたら高脂血症治療薬の提案が可能かと考えられる。



<不眠>
臨床経過:
10/10 プレドニゾロン錠(5) 6錠,分3(2-2-2)で服用中
【病棟薬剤師】 初回面接時,患者が不眠を気にしていることを聴取。カルテより血圧が180/100mmHgであることを確認。医師へ,不眠の原因としてプレドニゾロン錠の用法が考えられることを伝え,分3→分2(5-1-0)への変更を提案。併せて血圧コントロールのためβブロッカー投与の検討を依頼。
10/12 【担当医】 カルベジロール錠(10)1錠追加。プレドニゾロン錠の用法,分3→分2(5-1-0)へ変更となる。
10/19【病棟薬剤師】 患者に面談し,プレドニゾロン用法変更後の睡眠について尋ねると「ぐっすり眠れるようになった」と喜ばれる。不眠解消。
【担当医】 降圧効果不十分のため,カルベジロール錠(10)2錠へ増量。
10/23 【担当医】 血圧コントロール不十分で心因性(白衣高血圧)の可能性もあるため,降圧剤は継続としエチゾラム錠(0.5)1錠追加。その後,カルベジロール錠・エチゾラム錠追加により血圧コントロール良好となる。

《薬剤師のケア》
入院患者の不眠の訴えは,環境の変化や運動量の減少,日中の仮眠等によるものと判断されがちですが,薬剤師が薬学的根拠に基づきステロイド剤によるものではないかと考察を加え,用法の変更を医師へ提言しています。睡眠薬等,安易な薬剤の追加をすることなく不眠を解消できた事例です。

《自分の意見》
不眠はステロイドの副作用として考えたことはなかった。病棟薬剤師として面談を行う時は、不眠を確認したい。また、白衣高血圧はエチゾラムで対処できることにも留意したい。



<精神症状>
臨床経過:
6/7 入院。
6/14 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症と診断。
6/15【病棟薬剤師】 初回面接。プレドニゾロンは,真菌感染を助けているアレルギー反応を抑える重要な薬であること,合わせてプレドニゾロンの副作用の注意点に関して説明したところ,昨晩幻聴を経験したことを聴取。主治医に連絡を取り,精神科受診を勧めた。
6/18 精神科にてカウンセリングおよび,向精神薬投与(ハロペリドール0.75mg/寝る前)を受け,症状消失。

《薬剤師のケア》
ステロイド剤による精神変調には神経症,多幸症,躁うつ状態等,様々な症状があり,軽度な症状としては症例3のように不眠等の形で現れるケースもあります。本症例ではプレドニゾロン投与開始翌日に薬剤師が訪問した際,すでに患者は精神症状を経験していましたが,薬剤師の適切なアドバイスにより精神科を受診,カウンセリングおよび投薬を受けて症状は消失しました。事後ではありますが,薬剤師による患者指導が副作用回避に役立った1例です。

《自分の意見》
これは流石に病棟の面談時でないと気づきにくいか。ハロペリドールセレネース)でそのような症状を消失出来ることに驚きである。


<眼圧上昇>
臨床経過:
5/29 ネフローゼ症候群治療のためプレドニゾロン錠40mg処方開始。
【病棟薬剤師】 副腎皮質ホルモン剤の副作用情報のうち患者が自覚できる症状と対処法について情報提供。
6/16 服薬指導時,薬剤師に目の違和感・頭痛を訴える。
【病棟薬剤師】 患者の訴えを医師にフィードバック。
6/18 患者が目の違和感と頭痛が続くことを訴えたため眼科受診。ステロイド剤による眼圧上昇と診断され,緑内障治療点眼剤の処方を受ける。

《薬剤師のケア》
本報告は,事前に薬剤師による薬の副作用症状の説明を受けた患者が目の違和感・頭痛を訴えたため,副作用への速やかな処置を講じることができた症例です。頭痛という症状も様々な原因で起こりますが,硝酸剤,カルシウム拮抗剤やステロイド剤が処方されている患者では特に薬剤性の頭痛が好発します。薬剤により対処法が異なり薬学的ケアも異なることに注意する必要があります。

《自分の意見》
この症例自体は面談に行かない限り気づくことはないが、ステロイド使用患者に緑内障治療点眼薬などが処方されていないか、鑑査時にチェックしたい。



《自分のまとめ》
他に

糖尿病 :多飲,多尿,口渇,倦怠感
消化性潰瘍:腹痛,黒色便,吐血
骨粗鬆症:腰痛

などもあるので、同様に注意したい。