Ras/Raf/ERKシグナル経路はアポトーシスを誘導する


ERK and cell death Mechanisms of ERK-induced cell /Cagnol S /FEBS Journal


 アポトーシスによるプログラムされた細胞死は細胞自律的なメカニズムである。そのメカニズムはカスパーゼの活性化に制御される経路や損傷のために死へ向かう核で、周囲の細胞に影響を与えることなく引き起こされる。内因性のアポトーシス経路はBcl-2ファミリータンパク質の活性を制御する。Bcl-2はミトコンドリア膜の整合性を制御している。ミトコンドリアからの細胞質への、例えばシトクロームCのようなアポトーシス促進性因子の放出は、カスパーゼ9の発動因子の活性化を促進し、そして、結局、カスパーゼ3や7のようなカスパーゼを活性化する。外因的な経路では、腫瘍壊死因子 (TNF) 受容体ファミリーからの腫瘍細胞死受容体の活性化によって引き起こされる。TNFによって、例えば細胞死ドメイン (TRADD) を介したFas関連死ドメイン (FADD) やTNF受容体スーパーファミリーメンバー1A (TNFRSF1A) 関連死ドメインというようなアダプタータンパク質を介したカスパーゼ-8の発動因子の活性化が促進される。カスパーゼ8の強い活性はカスパーゼを直接活性化しているのかもしれない。つまり、Bcl-2ファミリータンパクのBidの切断を介した内因性の経路の誘導を通したシグナルの増強が必要なのかもしれない。
 Ras/Raf/ERK経路のアポトーシス促進性の機能の報告は1996年に現れた。ベンゾキノン含有アンサマイシンの一つであるゲルダナマイシンによるRafの枯渇がMCF-7細胞を抗腫瘍物質であるタキソール誘発性のアポトーシスに対する保護作用を示した一方で、MEKのアンチセンスcDNAの発現がU937という白血病細胞でブファリン誘発性のアポトーシスを保護した。MEK阻害薬 (PD98059、U0126) や、Ras、Raf、MEK、ERKのドミナントネガティブや恒常的活性体の発現を用いることで、アポトーシスを誘導におけるRas/Raf/ERK経路との関連を確認した論文が増え続けた。
 Ras/Raf/ERK経路のアポトーシス促進性の機能は、例えばエトポシドやドキソルビシンなどのDNAを損傷する薬物、紫外線、γ放射線によって誘発されるアポトーシスに関して、多く述べられてきた。ERKの活性化は網膜細胞におけるシスプラチン誘発性アポトーシスと特に関連がある。
 ERKの活性は、他にもまた様々な抗腫瘍成分に対して誘発される細胞死と関連がある。例えば、(赤ワインに含まれるポリフェノール) レスベラトロール、(黄色フラビン系色素) ケルセチン、(抗炎症作用を有するイオウ化合物) フェネチルイソチオシアネート、ベツリン酸、(フラボノイドの1種;MAPキナーゼ阻害) アピゲニン、オリドニン、(インドの内臓リーシュマニア症治療薬) ミルテホシン、シコニン、タキソールなどがある。
 これらの薬物は内因性のアポトーシス経路を誘発する。しかしながら、ERKの活性化は細胞死受容体のリガンドによる外因性経路の活性化にも関与している。例えば、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド (TRAIL)、TNFα、Fas、CD40のリガンドなどである。亜鉛、ONOO、H2O2やNO処置による酸化、カドミウム、ベンゾ[a]ピレン、アスベスト、砒素といった毒性成分に反応して生じた他の細胞死シグナルによって誘発される細胞死もまたERKの活性化が必要である。例えばエストラジオールやそのアンタゴニストであるタモキシフェン、インターフェロン-α、セファロスポリン、カルシウム動員性のカルシマイシン、上皮成長因子 (EGF) の欠損、レプチン、ブファリン、細菌感染、チェレリスリン、RacやCdc42のドミナントネガティブ形といったような多くの細胞死刺激はRas/Raf/ERK経路の阻害にも感受性がある。 
 逆に、c-Mycの発現やp53導入と併用したドミナントアクティブのRaf1によるERKの持続的な活性化、もしくは細胞死関連タンパクキナーゼ (DARK) と組み合わせたMEKの持続的な活性化によって、他の刺激なしにアポトーシスは誘導される。更に言えば、稀なケースにおいては、Raf1、RasV12S35、インスリン様成長因子タイプ1 (IGI-1) 受容体の発現によって仲介された、或いはΔRaf1 : ER誘導によるRaf/ERK経路のみの活性化は細胞死を促進するに十分であった。